レストア日記 ロブウォーカー編

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AUSTIN MINI COOPER 1300S MkT

1967/1969y

ROB WALKER RACING


空力を考慮してアドバンテージを得ようという目論見は、扁平なミニを生んだ
まるで幻のように急卒に登場し、わずか2年間で表彰台を去ったスプリント!

スプリントの誕生は65年までさかのぼる。レーサーであったネビル・トリケットの発案で、
前投影面積をできる限り小さく抑えたミニが制作された。
構想の具体化には
ジェフ・トーマス・ディストリビュウションがあたり、GTSの呼称がつけられたのである。

その後トリケットは、ジョン・クーパーと並ぶグランプリチームの
ロブ・ウオーカーに、このクルマの制作の話しを持ちかけ
ロブ・ウオーカーGTS、そしてミニ・スプリントとして世に送り出した。
制作台数は、67年〜69年の間に20〜24台とされ、ロンドンで最大規模の
BMCディーラー、スチュアート・アンド・ガーデンを通じて販売された。
当時、ロブ・ウオーカーが制作したカットダウンミニはボディ形状にい
くつかのバリエーションがあった。
というのも、実際に製造に携わった工場が多数あったこと、デザインに改良が加えられたこと。

また、ユーザーの要望によってもスタイルを変えていたからである。


オーナー所有のロブウォーカーアルバムより


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 レストアしてみないかと紹介されたのがこのロブウォーカーである。

 縁あってレストアの仕事を小僧の頃から様々な車にかかわってきた。
と言っても自分の本業は塗装屋である。板金屋ではすばらしい親方にめぐり合い数々のクルマを仕上げてきた、
そして現在の自動車板金では見たくても見られない30年前にはごく普通に行われていた高度な板金テクニック
をマンツーマンで塗装屋の言い訳、板金屋の言い訳をぶつけながら数々の感覚的なテクニックを磨いてきたのだ。

 その後、 大好きなバイク、カスタムヘルメットの仕事をする為に独立した。
きっかけはただ単に車を触るのが嫌になって、もっと自分の好きな事に近づいた事がやりたかったのかもしれない。
それでもレストアによる板金作業が終了した頃になると、請負として全塗装を頼まれ出張したりもした。
 他の板金屋で塗装屋の小僧を指導してくれと教えに行った事もたびたびある。そんな彼らも今では板金屋の社長をしている。
なかなか自動車から離れられないもので、そんな事をしているうちにチョップトップのミニを拝見することになった。

 そのミニはチョップトップにしてあり、チョップの手法としてピラーを切り詰め、ルーフパネルを十字にカットした間に
同厚の鉄板を溶接すると言った方法をとるのが主流であるのに対しルーフの大きさはそのままで
フロントピラーの角度を寝かすといった方法をこの車は取っていた(最近の主流になりつつある)。
これは空力を考えての事だろう。
それにミニ特有の『耳』が無い。ミニはボディ構造上この『耳』にスポット溶接がしてあり、この部分が無いと言う事は
その部分は溶接やパネル同志の『通り』を修正するのに大変な労力を費やしてるのが見て取れた。
床の部分はかなりきていた(腐食が)。サイドシル周りでは過去にお目に掛かった事が無いほど凄かった。
何でこんなに成ったかはこの時点では謎だった。

 工場に持ち込まれたときのボディカラーはくすんだホワイト。(表面が劣化して光沢がない)[@]
塗装に関してはミニ特有のサイドボディのプレスラインが見えなくなるほどに塗装が繰り返されていた。
つまり、塗装の厚みでラインがボケてしまっていた。
普通はここまでなる前に剥離をし再塗装するものだが・・・・・。
インチキ塗装が何度も繰り返されていた。以前のオーナーが低予算で全塗装を繰り返していた証拠。
ドアヒンジの所は、この当時のミニでは良く見られる事で構造上の問題で、あまりにもサイドシル周りに
圧倒されて、たいした程には感じなかった[A]。
問題のサイドシル周り、運転席より地面が見える程腐食してボディ強度が心配になる程で
これで良く走ってたと感心させられた[B]。徹底的に部品を外し不安要素のあるところは切開し、
何処まで修理をして行くか、オーナーとの打ち合わせにかなりの時間を裂き結論として
妥協できるところは中古部品を可能な限り使う事になった。
中古部品とはこの場合、事故車等の高年式車。ミニはボディ構造がほとんど一緒なので使える部分は
移植する事になったのである。(細かいところをこだわる人には向きません。)
新品部品でも良いのだが、新品は一部のパネル部品として来てしまい、隣接している小さな部品類
などは欠品してたりと作業者にとってなにかと不都合が生じるからである。中古であれば取りたい部品が
大抵あると言ったミニならではの裏技である。

@ A B C
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 作業に掛かる前に部品類を外した後、ここで薬品を使って旧塗膜を剥ってしまいたいところであるが、
このクルマの場合、先ほど触れたように全塗装を何度も繰り返した形跡と腐食のひどさ等様々な理由から
作業個所ごとに剥離をする事にした。[C]
剥離をする個所は取替えずに再生して使う場所で、取替えてしまう部品は外す為に必要な溶接部の剥離のみ。
 下の写真[D]はサイドシルアウターを外した所で普通、ミニの場合ここまで腐食するのは稀である。
パネルを外す時に解った事であるが、どうやら一度外した形跡があり、
再度装着する時にミグ溶接するまでは良いのだが、溶接の仕方に問題があった。と言うのは、
溶接する際にバイスでの固定が甘く、しかも゛耳"の外側部分を溶接をした時の隙間が原因と判明。
普通外側には溶接はせずに通常のスポット溶接同様、挟んだ内側を溶接するはずだが、仕事を早くする為に
外側から溶接したのだと思われる。実際この方が手間も掛からず簡単なのだ、つまり手抜きと言う事だ。
それに何の防錆処理もせずに隙間が開いていたものだから適度に水分やホコリが入り込み
通気性が悪いものだから錆びにとってはやりたい放題の環境をサイドシル内に作ってしまったのだ。
どうしてサイドシルを外したかと言うと、リアフレームを外す際サイドシルインナーに溶接されているナットが
溶接部より剥れ、共巡りをした為フレームが外せなくなりサイドシルアウターを
外す事になってしまったのだ。(実際良くある)
 するべき事をしっかりやればこんな事(錆び)にはなるはずがない。
 毎日波打ち際でも走ってたのなら別だが・・・。

D E F G
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 写真[E]はリアエプロン、バックパネル、リアフェンダーの連結部分で、通常スポット溶接部分(この場合゛耳")が
一般のクルマ(現在)は内側にあるのに対し、ミニの場合は外側にある。このような構造は
30年くらい前までは結構使われた方法で国産車で言えばホンダS800なんかがボディパネルの連結に
使ってました。この当時のデザイン、生産性など様々な要因があったと思う。
 このロブウォーかはスポット溶接部分を排除してスムージングされており、パネル同志をミグ溶接してつないである。
もともとミニはこのような事を前提に考えられてない為、この付近のパネル同志の立て付けが合ってないので
それをスムーズにする為にこれほどのパテを使ったと思われる。
 写真[F]はリアスカート部を新品のパーツのに交換する為に取った所。
トランクルーム写真[G]の床の部分は既に細かい穴が無数に開いていたので中古品に交換する事にした。

H I J K
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 写真[H]はトランクフロアーパネルを取り外した所です。中古部品を取り付ける訳ですが、ミニはこの部分に
バッテリーケースが付き比較的この部分が良く錆びる。中古品はやはり錆びていたのでバッテリーケースのみ
新品に変更。新品のリアスカートを理想的な位置で溶接しリアサイドパネル部のテールランプは工場に持ち込まれた時は
Mk−Uのテールランプに改造されていた為、Mk−Tのテールランプが着くように改造。途中の様子が写真[I]。
 写真[J]がドアヒンジが着くフロントピラー部。写真はアウターパネルを外した時のインナーパネルの状態。
Mk−Uまでの外側にヒンジがついたモデルは残念ながらこんな風になり易い構造になっている。
比較的ミミの部分が腐って溶けていたわりにミミ以外は鈑金だけで済み、溶けて無くなっていた所を新たに
制作そして移植した後が写真[K]。

L M N O
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 写真[L]は、腐食が進んでしまった個所をこんな感じで作り、鈑金、錆び取り済みのパネルに溶接。
いろいろ車を見てきたけれど、ここまで剥離せずにオールペイントを繰り返してた車も凄い!どこかの年輪ではありません。
おかげで塗料の厚みやらパテの多さで通常であれば剥離剤で塗膜を剥がしたいが、それでは何時になっても鉄板が
顔を出さない為、サンダーとバーナーとスクレーパーでの剥離作業になる。
写真[M]はクォ−ターパネル、以前にモールがついていた所を
盛りハンダで埋めた痕跡あり。穴埋めや整形にパテ代わりに一般的に使われていたが密着させる為の酸で腐食を
誘発させやすい為に最近では使わない方法。
 あまり厚くパテが付いている箇所ではバーナーで少し炙り、パテが柔らかくなった所をスクレーパーで削り取り、
残った所をサンダーの回転を落とし、程ほどに押さえながら削っていく。鉄板が歪む為、高回転は禁物!
トルクのあるサンダーにパット、塗装が絡みにくく鉄板に必要以上食い込まないペーパーとのマッチングが美しく剥るコツ。
中古部品に付いて来たパネルも腐食部分を作らなくても、切って付けるればこんな時に役立つの写真[N]。
インナーパネルの錆びを取り、リン酸処理を施し、アウターパネルを付けた後から防錆ワックスを注入する為の穴を
事前に開けておき、制作済みのアウターパネルを溶接、パテ整形、ドアを借り付け隙間を調整、サフェーサーで仕上げた
時の写真[O]。

P Q R S
robwalker_r.jpg (29372 バイト) robwalker_r_2.jpg (26075 バイト) robwalker_r_3.jpg (22912 バイト) robwalker_r_4.jpg.jpg (28988 バイト)

 写真[P]は、フロアーのクロスメンバーの腐食があまりにもひどかった為に最近(91〜96)の新品クロスメンバーに変更。
古いミニでも比較的新しい新品部品に変えられるところは頼もしい。細かい部分で仕様変更はあるが寸法的には使える部品が多い。
写真[Q]の下部は切除しボンデ鋼板で製作、ナメ付けによる溶接をする。
ドアパネル塗装剥離後の写真でパネルにまったく傷がなく鋼板に刻印が残っており、そこには写真では読みにくいのだが
『 29 11 67 』と印刷されており、1967年11月29日に製造された鋼板?なのかと感動!
通常、ここまで古い車で何度も全塗装を繰り返したにもかかわらず無傷ってところがまた凄い!!
写真[R]は溶接終了後、サンダーで磨いたところ。ウォッシュプライマー塗布後、サフェーサー塗装で下地完了。
このミニには、後付?オープントップが付いていたが穴埋めすることになり急遽部品取りのルーフパネルを移植することになり
切断部分をケガク為にサンダーで削ったところ。写真[S]。
普通は穴の開いている所だけを塞ぎたいところだけど、既に穴を開けた時点で周辺の張りが無くなっておりヒズミ抜きには
そうとうの労力を要するわりに満足いく形にならない。このミニの場合、ルーフパネルと周辺パネルの接合部分にあたる
『トヨ』がスムージングされている為あえて周囲のアールのきつい部分で切断。通常ならば通常スポット溶接されている部分から
取り替えれば問題なし。端のアール部分での溶接は張りを持たせることが十分に可能でこのミニはルーフ内側が見えるので
ナメ付け溶接することにより溶接棒の添加量を極力抑えられる為ビードによる出っ張りがなく見た目にも美しく仕上がります。

A B C D
robwalker_x.jpg (29937 バイト) robwalker_x_2.jpg (25080 バイト) robwalker_x_3.jpg (28062 バイト) robwalker_x_4.jpg (30199 バイト)

 写真[A]は不要部分を取除いたところ。移植するルーフパネルのセンターを出し仮組みをし、
溶接部分が重ならないように入念にチリ合わせをする。この作業を怠ると溶接時に熱で膨張し
冷めた時に歪みが出る。写真[B]。
位置を決めたら仮付け(溶接)をじゅうぶん解けこましながら、本付け時に応力で外れないように慎重に進める。
仮付け後は根気良く本付けをしていきます。溶接終了時の写真[C]。写真[D]は裏側の溶接部にサフェーサー塗装後で、
ナメ付け溶接の為不要なビードが出ないのでそのままサフェーサーで目立たなくなります。

E F G
robwalker_r.jpg (34800 バイト) robwalker_y.jpg (30726 バイト) robwalker_z.jpg (35837 バイト)

写真[E]はダッシュボード付近をサフェーサーで仕上げたところ。
写真[F]はエンジンルームにサフェーサーが入り、いよいよ化粧前。
床部分は油性アンダーコートが塗ってあった事もあり、予算の都合で同種のアンダーコートで塗装。写真[G]

ここから先は下地足付けから塗装に入るのだが、特に変わった作業がある訳でもないので省略します。
いよいよ完成したロブウォーカー。
オーナーよりお借りした記念アルバム画像をここに公開します。

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